第2回日本くすりと糖尿病学会学術集会レポート

The 2nd Annual Meeting of Japan Pharmaceutical and Diabetes Society

「糖尿病薬物療法のさらなる進歩へ—ALL(オール)薬剤師からの発信—」

2013年11月23日(土・祝)・24日(日)

於:星薬科大学

会長: 佐竹正子(恵比寿ファーマシー)
主催: 一般社団法人 日本くすりと糖尿病学会
後援: 公益社団法人日本薬剤師会、一般社団法人日本病院薬剤師会
  公益社団法人日本薬学会、一般社団法人医療薬学会
  公益社団法人東京都薬剤師会、一般社団法人東京都病院薬剤師会
  公益社団法人日本糖尿病協会、学校法人星薬科大学

 

第2回日本くすりと糖尿病学会学術集会

 2013年11月23日(土祝)・24日(日)に星薬科大学(東京都品川区)於いて開催された第2回学術集会をご紹介します。全国から700名を超える方々にご参加頂きましたことに、感謝申し上げます。

<開会式>  
<開会式>
<開会式>

 

 開会宣言に続き、日本くすりと糖尿病学会理事長である厚田幸一郎(北里大学薬学部)より、本会の設立主旨と薬剤師の職務の有用性、薬学における多角的な連携の重要性を強く語る講演がありました。
 会長講演は、薬局経営者である佐竹正子(恵比寿ファーマシー)が若くして開局し、その後母校である星薬科大学に戻り学位を取るまでの経緯と、糖尿病に深く関わっていく過程を、様々なエピソードを交え、そこから生まれた先駆者としての考えを熱く語りました。「ALL薬剤師の力で糖尿病薬物療法をさらに進歩させ、次世代にバトンタッチしたい」という大会テーマへの熱い想いが伝わる講演でした。


<特別講演>

 

<特別講演> 特別講演1は「超高齢社会における糖尿病診療−CDEの役割−」と題して南條輝志男先生(和歌山労災病院)にご講演頂きました。糖尿病に関する社会的問題を様々なデータから解説され、現在起きている、また今後起きると考えられる問題点をあげ、糖尿病療養指導が多角的なチーム形成に発展して対処していかなければならないとのお話でした。このような会で勉強したことをいかに実務で活かして行くかを深く考えさせられるご講演でした。
 特別講演2は「アッシュビルプロジェクト®の現在と今後の展望」Anthony Pudlo  (PharmD, MBA, BCACP)Vice-President of Professional Affairs Iowa Pharmacy  Associationです。米国アッシュビルプロジェクトとは、ノースカロライナ州アッシュビル地区において、薬剤師が地域の糖尿病の患者に積極的に教育的な介入・啓蒙をして自己管理を啓発し続けることで、5 年後のその地域の糖尿病に関する一人当たりの医療費を34% 削減した実績をもつプロジェクトです。実際にこのプロジェクトで患者支援にあたられたアンソニー・プドロ先生をお呼びしてご講演頂きました。従来の服薬指導とは異なりより包括的であることや体系的なアプローチの重要性が成功のポイントであったことを強調されていました。医師、薬剤師、患者のそれぞれが自分の得意とすることを実施し、他の利害関係者とも共同してプログラムを発展させていくことが重要であるとしていました。「あなたに健康になってもらいたい」というプロジェクトの基本理念は、シンプルですが全てを語っている言葉でした。

<特別講演> <特別講演>


<シンポジウム>

 

 シンポジウムは3題企画されました。本学会の独自性を活かした各シンポジウムとして高い評価を頂きました。 
1の基礎薬学部門は「医薬品の適正使用に必要な最近の薬物動態学」でした。基調講演である家入先生は薬物トランスポーター遺伝子多型と薬効、副作用の関連、そして母集団解析の重要性を、最先端の情報を交えて解説して下さいました。続いてSGLT−2阻害薬で注目を集める腎臓トランスポーターの働きの基本、多数あるDPP-4阻害薬の特徴を薬学的に整理した解説、上市されている薬物を中心に薬物相互作用の定量的なリスク予測等、実践に役立つ内容でした。予想を超える多数の参加者を得て、基礎系の学習を望む方々が非常に多いことがわかりました。 
演者:家入一郎(九州大学大学院薬学研究院)、梶原望渡(京都大学医学部附属病院薬剤部)、久米俊行(田辺三菱製薬薬物動態研究所)、伊藤清美(武蔵野大学薬学部)

<シンポジウム> <シンポジウム> <シンポジウム> <シンポジウム>

 

 2「ALL薬剤師からの発信妊娠中の糖代謝異常に対するそれぞれの発信はひとつに結ばれる」は、大会長が女性である目線を活かしたいと企画したテーマです。2010年に妊娠糖尿病の基準が改められたことにより、妊娠糖尿病と診断される妊婦は3~5倍に増加し、その頻度は12%と推定されています。妊娠前後の管理は合併症予防において重要ですし、母体の管理は次世代の子供達を守っていくことに繋がりますから、各ライフステージに合わせた指導が重要です。臨床医、大学研究者、病院薬剤師、薬局薬剤師が一同に介して、それぞれの目指すもの、現状と課題を出し合い、相互に理解できたことから今後の他職種連携に繋がる貴重な機会となりました。 
演者:荒田尚子(国立成育医療研究センター母性医療診療部)、厚味厳一(帝京大学薬学部)、八代智子(国立病院機構東京医療センター臨床研究・治験推進室)、伊藤由紀(スギヤマ薬品)

<シンポジウム> <シンポジウム> <シンポジウム> <シンポジウム>

 

 3は学会研究班による「糖尿病治療薬の使用実態と残薬管理」の調査結果に基づき行われました。残薬の発生理由を明らかにして、その対処方法の指導を積極的に行うことにより約95%で効果がでたという結果は、日本においてもアッシュビル・プロジェクトの様な成果を得られる可能性を示唆していました。継続的な薬物治療が重要である糖尿病において、残薬発生理由が単なる「飲み忘れ」に止まらず、理解不足、服用法の誤解、副作用の不安等、多様な要因によるものであったことは重要です。要因が明らかとなれば、連携を含めた個別の適切な対応、薬学的管理が可能になります。充実した研究成果に、今後の研究班の活躍に期待が集まっていました。 
演者:亀井美和子(日本大学薬学部)、秋山滋男(群馬県済生会前橋病院薬剤部)、大澄朋香(千葉県薬剤師会薬事情報センター)、篠原久仁子(フローラ薬局)

<シンポジウム> <シンポジウム> <シンポジウム> <シンポジウム>

<ミニレクチャー>

<ミニレクチャー> <ミニレクチャー>

 これも昨年に続き、会場に入りきれない参加者を得たプログラムです。「学会発表を目標に」では西村博之先生(陣内病院薬剤部)が、最初は病院長の勧めを素直に受け止めて始めたものの、試行錯誤しながら研究をスキルアップして行ったご自分の経験をお話下さいました。「論文の書き方入門」は前回に続いて武田真莉子先生(神戸学院大学薬学部)でした。両先生共、それぞれのノウハウだけでなく「はじめの一歩」を進めることの大切さを、楽しく語って下さいました。 


<教育講演>

  昨年に続き、一流講師をお呼びしての連続講義を行いました。 
1「糖尿病概論—診断を中心に—」 
 島田朗先生(東京都済生会中央病院糖尿病内分泌内科)より糖尿病の診断基準、分類から治療法まで非常にわかりやすく、そして最新の知見をご講演頂きました。緩徐進行型の1型は2型糖尿病と鑑別が困難なことが多く、診断が重要となります。抗GAD抗体の測定の重要性と、また研究段階ですが膵島内分泌細胞がケモカインであるCXC10/IP10を発現しており、今後診断のための重要なマーカーとなる可能性があることをお話し頂きました。1型糖尿病の第一人者である島田先生ならではのご講演でした。 
2「糖尿病網膜症治療の現状と課題」 
 平形明人先生(杏林大学医学部眼科学教室)は最新の診断機器を用いたデータや膨大なスライドで解説をして下さいました。文字での知識がリアルなものとなり、早期診断や血糖コントロールの重要性がより強く認識出来るようになりました。また、硝子体手術の動画も見せて頂き、大変貴重な経験をすることが出来ました。 
3「運動療法」 
 運動療法は、糖尿病において食事療法に次ぎ重要ですが、薬剤師が体系的に学ぶ機会が少ない分野です。田畑稔先生(豊橋創造大学保健医療学部)はデータを用いて具体的にその効果を分かりやすく解説して下さいました。 
4「薬物療法」 
 山田悟先生(北里研究所病院糖尿病センター)は糖尿病治療薬をカテゴリー別に整理し、2型糖尿病を中心として薬剤と病態を関連付け、またそれぞれの薬剤の欠点を明快に解説して下さいました。 
5「食事療法」 
 日本病態栄養学会の学術評議員である西村一弘先生(緑風荘病院健康推進部)より、改訂された「糖尿病の食品交換表」のポイントと、情報が錯綜しがちな食事療法について、分かりやすく解説して頂きました。 
6「糖尿病療養支援に必要な「心」の知識」
 知識や技で患者さんと接しようとしていないか、患者さんと接するには心(覚悟)が必要である等、朝比奈崇介先生(朝比奈クリニック)から静かに語られる内容には厳しいものがありました。お話を聞く参加者の真剣な眼差しが印象的でした。

<教育講演> <教育講演> <教育講演>
<教育講演> <教育講演> <教育講演>

<参加型セミナー>

 昨年は募集から短期間に定員に達したため、今回はプログラムを増やしました。人気のあるグループワークのセミナーです。 
1実技編 インスリン自己注射と血糖自己測定をマスターしよう! 
 患者さんに自信をもって指導に当たるためには、手技を正しくマスターすることが重要です。違う製品では微妙に異なる点も、じっくりと手に取って何度も使ってみると分かってきます。メーカーが提供している補助器具をもっと使いこなせるようになりたいとの参加者の意見もあり、薬剤師による手技指導の広まりが感じられました。そのような点からも有意義な機会であり、より充実させていくべきセミナーであると考えられます。 
2症例検討(導入編)処方設計の理解と情報のとり方~処方箋と糖尿病手帳から読み取る~ 
 宮川高一先生(クリニックみらい国立)から、経時的に検討していく1症例をご提示頂きました。開局薬剤師を主な対象とし、処方箋、連携手帳等の少ない情報でもアプローチ次第で情報に深さを与えることが出来ることと、専門医ならではの処方設計のノウハウを学ぶことが出来ました。 
3症例検討(応用編)~糖尿病の病態と治療の基礎について学ぼう!~  辻野元祥先生(東京都立多摩総合医療センター内分泌代謝内科)から、認知症等治療上課題のある1症例をご提示頂きました。CDEのスキルアップを主な目的とし討論が行われ、参加者から経験に基づく多角的なアプローチ法の意見が多数出て、大変活気のあるセミナーとなりました。

<参加型セミナー> <参加型セミナー> <参加型セミナー> <参加型セミナー>

<ワークショップ>
<ワークショップ>

 動機づけ面接・エンパワーメント体験ワークショップ~3☆(スリースター)ファーマシスト研修体験版の会場は実に活気に溢れていました。患者さんともっとコミュニケーションを取りたいと思いながら悩んでいる方は多いと思います。しかし時間という制約をあえて設けて訓練することにより、効果的に患者支援が行えるようになるということを、このワークショップで学ぶことが出来たと思います。


<一般演題(口演・ポスター発表)>

 全体として非常に整ったレベルの高い発表が多く、優秀賞審査の方々を悩ませる嬉しい事態となりました。糖尿病教室立ち上げに携わった経験についての実務的なものから、インスリンカートリッジ内のゴム栓のコアリングを地道にカウントした基礎的なものまで、幅広い内容でした。なかでもインスリン硬結の組織生検まで行ったという臨床的な報告は多くの方の興味を引いていました。限られた質疑時間ですが、フロアからの意見が相次ぎ、参加者の関心の高さが伝わりました。冬の学術大会ですが、会場の中は熱気に溢れていました。 
—優秀演題— 
Ⅰ-P-32 保険薬局ネットワークを用いた地域連携の構築 
湯原友美(松江記念病院薬剤部・荘原中央薬局)、他 
Ⅰ-3-6 インスリンカートリッジの適正使用に関する実態調査-臨床でのカートリッジ内へのゴム片混入の割合-
柴田笑利(新潟薬科大学薬学部)、他 
Ⅱ-3-8
高度不飽和脂肪酸のGLP-1分泌促進作用を介した新規糖尿病治療法の開発
亀井敬泰(神戸学院大学薬学部)、他

<シンポジウム> <シンポジウム> <シンポジウム> <シンポジウム>