一般社団法人 日本くすりと糖尿病学会

第1回日本くすりと糖尿病学会学術集会レポート

The 1st Annual Meeting of Japan Pharmaceutical and Diabetes Society

2012年9月22日(土・祝)・23日(日)

於:星薬科大学 会長

厚田 幸一郎(北里大学 薬学部)

主催 一般社団法人 日本くすりと糖尿病学会
共催 学校法人 星薬科大学、一般社団法人 東京都病院薬剤師会
後援 公益社団法人 日本薬剤師会、一般社団法人 日本病院薬剤師会
  社団法人 東京都薬剤師会、一般社団法人 日本医療薬学会

 本学会は第1回日本くすりと糖尿病学会学術集会を2012年9月22日(土)、23日(日)の2日間、東京都品川区の星薬科大学で開催致しました。参加者は650人を超える盛況となりました。全国からご参加頂きました皆様に感謝申し上げるとともに、その内容をご紹介致します。

<開会式>

日本糖尿病学会理事長 門脇孝先生、
日本医療薬学会会長 安原眞人先生、
東京都薬剤師会会長 山本信夫先生、
東京都病院薬剤師会会長 明石貴雄先生
より温かいご祝辞を頂きました。

<開会式>


<会長講演>

<会長講演>


「糖尿病診療はチーム医療の典型である」厚田幸一郎
   (日本くすりと糖尿病学会 理事長)
 チーム医療という言葉が根づくずっと以前から糖尿病教室に携わり、薬剤師による糖尿病薬物治療への介入による成果 を発表してきた経験と、海外における薬剤師の糖尿病領域で の活動を紹介し、広く見識ある講演でした。また、日本糖尿病療養指導士(CDEJ)をはじめとする薬剤師の現状と、患者の重症化と医療費増加の抑制において実績を示すべきなど、今後の活動の方向性を示す内容でした。



<特別講演> <特別講演>

 特別講演は4名の講師により、熱く深みのあるご講演を賜りました。 会場となった星薬科大学の学長である田中隆治先生は「機能性食品から みた糖尿病薬創製の可能性」と題し、ゲノム研究からみた人類の起源、 進化における食物とヒトの変化、我々が東洋で育んできた食文化の意味 深さという、科学的な文化に富む内容でした。消化管微生物による機能 や免疫活性機能から健康というものを見直し、現代の高度な科学技術を 駆使して食品という日頃摂取している物を見直していくというお話は、栄養学とは異なる食品に対する薬学的視点を我々に与えて下さるものでした。
 糖の流れを捉えることの重要性を早くから語ってこられた河盛隆造先生(順天堂大学大学院スポートロジーセンター)は、「大きく変貌し続ける2型糖尿病治療」と題し、内因性インスリン分泌の回復の重要性、門脈内におけるブドウ糖・インスリン・グルカゴンのカクテル配合比率改善の重要性などを、臨床と研究の多くのデータを交えてお話いただきました。
 アメリカからお招きしたクリスタル・エドワーズ先生(テキサステック大学薬学部)はCollaborative Drug Therapy Management(CDTM:共同薬物治療管理) という薬物治療の質と費用対効果を高める外来クリニックにおける臨床薬剤師の活動を、実例をあげてわかりやすく解説してくださいました。医師の合意のもとで処方権を委任されて治療に参画することの意義、ガイドラインの遵守の重要性、患者教育への関わりの深さ、薬物治療の評価への責任の重さが大変よく理解できました。糖尿病治療に携わる参加者に多くの示唆を与える講演でした。講演内容の日本語訳を当日会場にて配布しましたが、先生のご好意により特別に期間限定で公開致します(特別サイトは2012年内のみ閲覧可能です)。
 清野裕先生(関西電力病院)はインクレチン療法の最新の情報と臨床経験に基づく研究内容を多数紹介してくださいました。そのなかで印象的であったのは「DPP-4阻害薬の長期使用による変化」に対する先生の見識と「DPP-4阻害剤は飲むGLP-1ではない」と安易な使用を諫める言葉でした。また薬剤師としての活動の成果を、きちんと評価して発表することの重要性を本学会への課題として述べておられました。



<シンポジウム>

 シンポジウム1の「薬剤師と糖尿病療養指導の現状と課題」は学会研究班が行ったアンケート調査による研究結果を基に構成されました。朝倉俊成先生(新潟薬科大学薬学部)より糖尿病療養指導士である薬剤師の現状に対する提言があり、小林庸子先生(杏林大学医学部付属病院薬剤部)と篠原久仁子先生(フローラ薬局河和田店)より病院および薬局への薬剤師アンケート調査の結果に考察を交えて発表がありました。亀井美和子先生(日本大学薬学部)からは、薬剤師が積極的にかかわった海外の療養指導プログラム(アメリカ・アッシュビル、オーストラリアDMAS)の紹介とそのサポートによるアウトカムのレポートの解説がありました。今回の調査では病院、薬局ともに多くの薬剤師が非常に幅広い内容の糖尿病療養指導に関わっていることが明らかとなりました。マンパワー、時間、場所、他の業務との兼ね合いなどの制約が多いなかで、お薬手帳だけでなく糖尿病手帳の活用、時間配分の工夫、地域連携、多職種との連携などで実績を作り上げていくことは可能であり、その結果を蓄積して評価することが重要であることが読み取れました。大学(教育者、研究者)、病院、薬局それぞれのシンポジストからの提言に、活発な意見交換が行われました。

 シンポジウム2は、糖尿病薬物治療の基礎研究がどのように臨床に生かされているかを医学、基礎薬学、臨床薬学の各分野からお招きした先生にご講演いただきました。基調講演の島野仁先生(筑波大学大学院医学医療系)は臨床として大学病院における入治療方針の決定プロセス、病態メカニズムと薬効メカニズムの共通性を解説し、基礎研究からみて糖代謝と脂質代謝をリンクして考えること、全身の血中リスク管理を行うことの重要性を、エネルギー代謝ネットワークの最新の研究データを交えて解説してくださいました。「ものを考えるCDE、薬効メカニズムを考える薬剤師、明日のことを考えるコメディカル」というメッセージもいただきました。
 亀井淳三先生(星薬科大学薬学部)はメキシレチン、ガバペンチン、牛車腎気丸等の臨床で用いられている有痛性糖尿病性神経障害治療薬の薬効メカニズムについて、発症機序、神経系の機能変化など疾患に起因する特異性の関与と共に解説していただきました。
 糖尿病は様々な合併症を起こす病気であるため、多角的に全身管理をする必要性から、多剤を併用する場合が多い疾患です。CDE-Jでもある大野能之先生(東京大学医学部付属病院薬剤部)は薬物間相互作用の影響の大きさを理論的に予測する方法として提唱なさっているCR(寄与率)-IR(阻害率)法で薬物動態の変化を考え、PISCS(Pharmacokinetic Interaction Significance Classification System)を用いることでその臨床的なリスクをもれなく判断する方法を、スタチン系薬剤を例にわかりやすくお話していただきました。
 基礎研究の難しい内容を体系的に学ぶことができて、大変分かりやすかったと好評でした。



<教育講演>

 糖尿病療養指導に必要な基礎知識を二日間にわたり5演題の連続講義が行われました。守屋達美先生(北里大学医学部)は「糖尿病概論」として病態と診断に重要なポイントを、症例を交えて教えてくださいました。膨大な内容をコンパクトにわかりやすくお話いただきました。
 「心理と行動」では著書も多い大橋健先生(国立がん研究センター中央病院)はセルフマネジメントこそ治療の主体であり、今までと違う視点をもって患者さんに接することの重要性、心理への働きかけが行動の変化へつながることを、ウィットに富んだ語り口で教えていただきました。
 最新の「薬物療法」を解説してくださった山田悟先生(北里大学北里研究所病院)が「1が食事療法、2が運動療法、3と4が無くて5が薬物療法」と言っていらしたことが大変印象的でした。
 薬剤師が日頃接することの少ない「運動療法」を天川淑宏先生(東京医科大学八王子医療センター)は、その有用性をエビデンスと共に示していただきました。特に効果を患者さんに「見える化」することの重要性は療養指導すべてに共通していると思われます。
 「食事療法」では石田均先生(杏林大学医学部)は、生理学的な視点から食事療法を捉える重要性を、インクレチンの働きとカーボカウントの考え方を例に解説して下さいました。そして極端な糖質制限食の長期的な弊害や危険性を強調されていました。巷のブームに流されない、科学的なエビデンスを重視した糖尿病療養指導のあり方を再認識させられました。
 各講演において、総論にとどまらず、「自分に残った力を生かす治療、三位一体のためのチーム医療」などの強いメッセージを、各先生が必ず投げかけて下さり、優れたCDEを育てようとする熱意があふれていました。



<ミニレクチャー>

 専門性を究める学術研究推進の支援企画としての武田真莉子先生(神戸学院大学薬学部)の「論文の書き方入門」は、立ち見がでる盛況でした。論文作成のいろはを大変わかりやすく解説して下さり、「まずノートの段階から書いてみよう」「リジェクトされても諦めない」など、know-howに富んだお話に、参加者全員が最後まで熱心に聞き入っていました。もっと先生のお話を聞きたいとの声が多く、学会としてシリーズ化も検討いたします。



<参加型セミナー>

 事前申込の定員制のセミナーは2題開催されました。両セミナー共に、参加申込開始後直に満員となりました。セミナー1 「糖尿病の病態と治療の基礎について学ぼう!」では、専門医である辻野元祥先生(東京都立多摩総合医療センター内科)と阿部和史先生(東京都立府中療育センター薬剤科)がコーディネーターとなり、一人の患者を経時的に追って行き、その病態の変化に応じた薬物療法を7−8人のグループに分かれて検討する形式で行いました。参加者レベルは非常に高く、ディスカッションは大変活発で、参加者の質問にコーディネーターが丁寧に答えていたのが印象的でした。
 セミナー2「インスリン自己注射と血糖自己測定をマスターしよう!」では虎石顕一先生(宗像医師会病院薬剤科)と朝倉俊成先生(新潟薬科大学薬学部)がコーディネーターとなり、糖尿病療養指導に重要なスキルを身につける実地練習を行いました。5−6人のグループに分かれ、全員がインスリンメーカー3社、SMBGメーカー3社の指導を直接受けました。インスリン注射器は各自に与えられ、SMBGの器械も最新機種を自由に使うことができました。最後に任意で針刺し体験を行いましたが、ほぼ全員が行っていました。注射練習パッドなどの指導用資材も、各メーカーの異なるものを使うことができ、経験豊かなスタッフがマニュアルにない注射針の取り付けのコツを伝授するなど、充実した指導内容であったと大変好評でした。



<糖尿病劇場>

 岡田浩先生(国立病院機構京都医療センター臨床研究センター予防医学研究室)をコーディネーターとして開催されました。「薬剤師によるエンパワーメント」は6人のスタッフが練り上げた作品です。一人の患者と医師、コメディカルのかかわりを3部構成(入院時、療養指導時、退院にいたるまで)で演じながら、日常よくある場面の問題点を観客と一体になって考えていくという構成でした。初めて見るという人も多かったのですが、楽しみながらも考えさせられる場面があり、関西弁で演じられていることが新鮮味を与えていたという参加者が多かったです。



<一般演題>

 基礎薬学、臨床、療養指導、在宅医療、薬薬連携と広範な領域から口頭発表、ポスター発表を合わせて51題の応募をいただきました。内容がしっかりしたものが多く、発表経験者が多かったため、優秀賞の審査員を悩ませました。これから演題発表をしてみたいという方々にも良い手本となったのではないでしょうか。糖尿病療養指導に関わる方々に、今後は多角的かつ広く参加していただきたいと審査委員長は述べております。優秀賞受賞者は以下の方々です。

  • 「生活習慣病外来における5職種の診療ブースを使用したリアルタイムチーム医療の有用性」
      北里大学東病院薬剤部 滝川亜弥
  • 「リラグルチドによる消化器症状の発現状況とリスク因子に関する検討」
      赤穂市民病院薬剤部 三木育子
  • 「シタグリプチン投与1週間後のグリコアルブミンの低下の程度による治療効果の判断」
      市立川西病院薬剤科 増本憲生
  • 「インスリン自己注射におけるトラブルシューティングツールの構築」
      新潟薬科大学薬学部医薬品情報システム 宇野加奈子
  • 「単科の精神病院における糖尿病患者に対する取り組み」
      福岡県精神医療センター大宰府病院薬剤科 中川伴子


<その他>

 ランチョンセミナーは両日共各4題、全8題が開催されました。企業展示では患者指導用パンフレットを揃えるなど、薬剤師の活動への協力体制が目立ちました。
 糖尿病協会インスリンサポート委員会を代表して内潟安子先生(東京女子医科大学)より、非常時のリスクマネジメントとしての活動発表がありました。薬の予備は2週間分持つなどの指導内容の紹介のほか、糖尿病協会で作成した災害時の拠点病院の連絡先カードをインスリンの薬袋に入れる活動の紹介と協力要請がありました。カードにつきましては、糖尿病協会およびインスリンメーカーへお問い合わせください。

 本学術集会のキーとなる言葉があるとすれば、Collaborative Drug Therapy Management(CDTM:共同薬物治療管理)となるでしょう。ACCP米国臨床薬学会によると医師と適任の薬剤師間で結ばれる業務協力の合意をさし、臨床薬剤師は規定されたプロトコールの範囲内で、患者評価・薬物治療に関係する臨床検査オーダー・投薬・薬物治療レジメンにおける薬剤の選択、開始、モニタリング、継続、用量調整を行います。当然、薬物治療に特化した知識・技能を用い、連携している多職種が行う様々なケアを補う能力が必要とされます。業務は薬物治療管理プロトコールに従って行われますが、業務責任は重いものとなるため、その臨床現場での能力や業務責任の適正を十分に検討したうえで、医師と薬剤師の合意のもとに業務協力の契約を行うのが米国のやり方です。本学会では日本に適したCDTMのあり方を、今後も皆さんと共に考え、論議していく場として今後の学術集会を洗練させていきたいと考えております。


文責 日本くすりと糖尿病学会 広報