主に災害時のインスリン自己注射に関して(2024年1月7日現在)

 本学会では、災害時のインスリン自己注射に関して、予想される留意点を取り纏めましたので、ご案内いたします。
 ご質問などございましたら、以下のアドレスへお問い合わせいただきますようお願い申し上げます。
office@jpds.or.jp

  • インスリン製剤と注入器には多くの種類がある。したがって、使用するインスリン製剤の種類と注射の単位を間違えないこと(日本糖尿病協会・日本糖尿病学会:https://www.nittokyo.or.jp/uploads/files/202209_insulin.pdf1、2)
  • 識別は、商品名、製剤区分マーク、識別色などで毎回確認する1、2)
  • まずは、毎回、速効型インスリン製剤、持効型インスリン製剤、GLP-1受容体作動薬の区別をすることが重要。そのために製剤区分マークがある(日本糖尿病協会:https://www.nittokyo.or.jp/uploads/files/insulin_dmensemble.pdf1、2)
  • インスリンカートリッジ(以下、カートリッジ)を組み込んで注射するデュラブル型注入器には、決まった種類のカートリッジしか使用できない(必ず使用するカートリッジとデュラブル型注入器の組み合わせを確認する)1、2)
  • 注射シリンジにてインスリンを注射する際は、必ず目盛りが「単位」になっているインスリン専用シリンジを用いる(一般の注射シリンジの目盛りはmLであるため、注射量を換算しなければならない)。なお、基本的にインスリン製剤は100単位/mL(100単位製剤)であるが、ランタス注XRソロスターは300単位/mL(300単位製剤)なので注意する1、2)
  • インスリン製剤の保管温度は、未使用の場合2〜8℃で凍結を避けることになっている1、2)
  • しかし、今の季節は真夏の高温環境とは違うので、使用開始前後に関わらず避難所の冷蔵庫に入れなくても特に大きな問題にはならないと考えられる(もちろん、冷蔵庫保管ができる場合は、冷蔵庫の扉付近や野菜室などの凍らない所に保管する)1〜3)
    「凍結」は禁忌である(添付文書、糖尿病:46(9)767-773,2003)。したがって、この時期では気温が零下になることが予想されるので、インスリン製剤はタオルなどに包んで外気と直接触れないようにし、就寝時は一緒に布団内に入れておくのも良い(SMBG機器なども同様)。
  • ただし、カイロや湯たんぽなどに直に接しないよう注意すること。混合型インスリン製剤は、温度が低いと懸濁しにくくなるので、注射前には人肌程度にカートリッジを温めると良い(温めるのは手で温める→決してストーブや湯煎などを利用しないこと)(日本薬剤会雑誌:59(7)985-988,2007、糖尿病:55( 10) 753-760, 2012)。
  • 停電していても冷蔵庫内のインスリン製剤は使用可能である(平時において、使用開始後のインスリン製剤は1ヶ月程度使用できる。また、外気が高温の場合は扉を開ける回数をできるだけ少なくするが、今の気候では大きな問題にはならない)。
  • 使用期限が多少過ぎていても使用を継続させ、できるだけ早く新しいインスリン製剤を入手する1、2)
  • 注射時には、必ず空打ちにて注入器や注射針に異常がないことを確認する1、2)
  • 注射針は毎回新しいものに交換するのが理想であるが、足りない場合は再使用でも可。ただし、現在普及している注射針は細くて短いので破断しやすい。したがって、曲がった針を真っ直ぐにするだけで亀裂が生じやすくなるため針は曲げないことと、曲がった針は使用しないこと1、2)
  • できれば、注射終了後は針を取り外しておく方がよい。針をインスリンカートリッジに付けたままにしておくと針先からの液だれとカートリッジ内への空気の混入が生じやすい(懸濁製剤の場合はインスリンの濃度比が変わる)。どうしても注射針を取り付けたままにする場合は、使用前に空打ちで大きな気泡は取り除く(注射針の構造的に少しの気泡は抜けきらないことがある)1、2)
  • 同じ針を何度もカートリッジゴム栓に刺すと、コアリングが生じて液漏れを起こすことがある。この場合は新しいインスリン製剤に交換する。
  • 他人と1本のインスリン製剤を共有してはいけない(逆血している可能性があるため)1、2)
  • アルコール消毒綿が不足している場合に、注射部位が汚れているときは注射部位を固く絞った濡れタオル(濡れティッシュ)などで拭き、よく乾いてから注射する。消毒綿がないからといって注射を止めてはいけない。SMBGでの採血時も同様。なお、アルコール消毒綿の代わりの消毒薬(ポビドンヨードやオキシドールなど)は用いない(SMBG測定結果が不正確になる可能性がある)4)
  • 注入デバイスや注射針は、決められた方法にて廃棄すること(日本糖尿病協会:https://www.nittokyo.or.jp/uploads/files/waste_leaf_single_page_2022.pdf1、2)
  • シックデイになる可能性が高いので、その際の対応は「日本くすりと糖尿病学会:糖尿病薬適正使用のためのシックデイルール指導のてびき」を参照して対応する5)
  • また、使用している糖尿病治療薬を確認し、シックデイカードなどを用いて対応について説明しておく(日本くすりと糖尿病学会:https://jpds.or.jp/?p=11615、6)


    シックデイカード(日本くすりと糖尿病学会:https://jpds.or.jp/sick-day-card/
  • インスリンポンプに関しては、「日本くすりと糖尿病学会:インスリンポンプ療法・各種検体検査機器に関する指針」を参照7)
  • 点鼻用グルカゴン製剤(バクスミー®点鼻粉末剤3mg)を用いる際の留意点については「日本くすりと糖尿病学会:点鼻用グルカゴン製剤(バクスミー®点鼻粉末剤3mg)の適正使用について」を参照(https://jpds.or.jp/net/wp-content/uploads/2022/09/proper_use_of_nasal_glucagon_preparations_202209b.pdf)」8)
  • 災害時の対応全般に関しては、「日本くすりと糖尿病学会:薬剤師のための糖尿病患者の継続的薬学管理のための災害対応のてびき」を参照9)

    (日本くすりと糖尿病学会:https://jpds.or.jp/category/guidance/

参考資料<各種てびきは、原則非公開でありますが、災害対応により一時的に公開しております。>
1)日本くすりと糖尿病学会:インスリン自己注射 薬学管理のてびき(https://jpds.or.jp/net/wp-content/uploads/2024/01/ALL_pharmaceutical_management_of_insulin_20200618.pdf
2)日本くすりと糖尿病学会:「適正な継続的薬学管理に必要な視点と行動例」具体例(https://jpds.or.jp/net/wp-content/uploads/2024/01/ALL_Perspectives_and_action_examples_needed_for_insulin_20211019.pdf
3)日本くすりと糖尿病学会:高温環境下でのインスリン製剤の保管に関する提案(https://jpds.or.jp/net/wp-content/uploads/2024/01/ALL_Storage_of_insulin_20200402.pdf
4)日本くすりと糖尿病学会:アルコール消毒綿不足時の対処について( https://jpds.or.jp/net/wp-content/uploads/2024/01/cb056c66b4e8d40876f2c5a47555b1ee.pdf
  
5)日本くすりと糖尿病学会:糖尿病薬適正使用のためのシックデイルール指導のてびき(https://jpds.or.jp/net/wp-content/uploads/2024/01/ALL_sickday_rule_20200527.pdf
6)日本くすりと糖尿病学会:糖尿病薬適正使用のためのシックデイカード使用のてびき(https://jpds.or.jp/net/wp-content/uploads/2024/01/SickDayCard_UsersManual_20220721.pdf
7)日本くすりと糖尿病学会:インスリンポンプ療法・各種検体検査機器に関する指針(https://jpds.or.jp/net/wp-content/uploads/2024/01/ALL_CSII_SAP_SMBG_CGM_POCT_20200820.pdf
8)日本くすりと糖尿病学会:点鼻用グルカゴン製剤(バクスミー®点鼻粉末剤3mg)の適正使用について(https://jpds.or.jp/net/wp-content/uploads/2022/09/proper_use_of_nasal_glucagon_preparations_202209b.pdf
9)日本くすりと糖尿病学会:薬剤師のための糖尿病患者の継続的薬学管理のための災害対応のてびき(https://jpds.or.jp/net/wp-content/uploads/2022/03/JPDS_disaster_response_20201204.pdf
  

以上

日本くすりと糖尿病学会

学術集会の開催、療養指導に携わる薬剤師の全国的ネットワークの構築および学会ホームページなどで医薬品情報の発信し、療養指導のスキルアップを目指します。