第3回 日本くすりと糖尿病学会学術集会 会長 虎石 顕一
2014年11月3日(日)・4日(月・祝)に第3回日本くすりと糖尿病学会学術集会をアクロス福岡(福岡市中央区天神)において「糖尿病治療薬の適正使用を考える」というテーマのもと、開催致しました。2日間とも天候にも恵まれ、800 名以上の参加者を迎えることができ、二神幸次郎実行委員長ともども感謝しております。
参加者の内訳を見ますと薬剤師はさることながら医師、看護師、管理栄養士、臨床検査技師、理学療法士の先生方が参加されており、日本くすりと糖尿病学会の裾野の広りを予測する兆しではないかと考えます。
開会式では開会宣言のあとに、大会長を務めた私が「障害をカバーしてインスリン自己注射を可能とする注入補助具の開発」と題して、長年製作してきました障害者向けのインスリン注入補助具の開発のきっかけとなった秘話から現在までの代表的な補助具の開発の経緯と、長年私を支えていただいた先生方への感謝を込めてお礼を述べさせていただきました。
次に本会理事長である厚田幸一郎先生(北里大学薬学部)より理事長講演は、理事長声明として、日本くすりと糖尿病学会の設立主旨やこれまでの活動について、今後の活動計画と課題について講演いただきました.認定薬剤師の話も触れられ益々充実した学会へと進んでいると実感しました。
特別講演1として、「糖尿病治療薬の適正使用と副作用:低血糖症を中心に」と題して柳瀬敏彦先生(福岡大学医学部内分泌糖尿病内科)にご講演いただきました。本学術集会のテーマである「糖尿病治療薬の適正使用を考える」にふさわしい演題であり、糖尿病の増加に伴い、多種類の糖尿病治療薬の使用が可能になった今、これらの薬剤の適正使用を一層、求められる時代となった。糖尿病治療薬の中には適正使用を心がければ副作用回避可能の薬剤もあるが、どの薬剤にも共通する問題点が低血糖である.現在、日常診療の盲点になるのは薬物相互作用による低血糖であり、一人の患者さんが、異なった病気で複数の診療科の医師から薬剤投与を受けていることは、日常茶飯事である.医師は,他所からの投薬内容にも注意を払いながら診療することが肝要と思われるとまとめられましたが、医師という言葉を薬剤師に置き換えると、これは薬剤師に向けての警鐘と激励ではないかと考えさせられるすばらしいお話でした。
特別講演2は、清原裕先生(九州大学大学院医 学研究院環境医学分野)に「糖尿病と癌に関する臨床疫学のエビデンス」と題してご講演をいただ きました。福岡と言ったら久山町研究と言われるぐらい世界的にも有名な疫学調査で、開始から50年以上続いており、今回は糖尿病が癌の発症リスクを上昇させる機序について話され、糖尿病治療の介入試験による悪性腫瘍の抑制効果の成績は極めてまれで、今後のエビデンスの蓄積が望まれる.糖尿病治療薬の使用と悪性腫瘍との関連について特定の薬剤と発癌の関連についてのエビデンスは限定的で、更なる検討が必要であるとまとめられ興味深い講演でした。教育講演は、岡山大学病院新医療研究開発センターの四方賢一先生、佐賀大学医学部肝臓・糖尿 病・内分泌内科の安西慶三先生、フローラ薬局河和田店の篠原久仁子先生、福岡大学医学部内分泌・糖尿病内科の野見山崇先生、福岡大学筑紫病院薬剤部の神村英利先生、九州大学大学院薬学研究院薬剤学の大戸茂弘先生にはそれぞれの専門分野のお話を拝聴させていただき有意義な講演でした。
シンポジウム1では「糖尿病療養指導における 薬薬学連携の推進─糖尿病治療薬の適正使用に向 けて─」と題しまして糖尿病における病診連携が 日本でうまく稼働している医療法人社団シマダ嶋田病院の赤司朋之先生に「糖尿病療養指導から始まる薬剤師の地域連携」を基調に薬薬学連携について議論していただきました。後で聞いた話ですが赤司先生の所には 1ヶ月後まで問い合わせや質問のメールが来ていたと聞き、このシンポジウムが成功裏に終わったと考えております。
シンポジウム2は日本腎臓病薬物療法学会との共催シンポジウムで「糖尿病腎症の進展防止をめざして─糖尿病腎症における血糖管理─」という テーマで議論していただきました。糖尿病腎症については関心が高く会場はほぼ満席でした。
シンポジウム3は「インスリンの発見からバイオシミラーまで─基礎と臨床─」と題し,インスリン製剤の発展の歴史からインスリンバイオシミ ラーとはについて話していただき、学会の前日に日本でインスリンバイオシミラーが認可された事は後から知りましたが、誠にタイムリーな発表をしていただきました。さらにインスリンの非注射投与の現状と開発動向について話していただき、経口インスリンはもうすぐそこまで来ているとの話でした。インスリン発見から100年目には実用化されるのではと期待が夢膨らむ思いです。このような状態でしたので参加された先生方は満足されたのではないかと自画自賛しております。
シンポジウム4は「CDE の取り組み─今までとこれから─」と題しまして日本各地でCDEの薬剤師として先駆的な活動をされている先生方に活 動報告をしていただき、さらに各地のCDEの活動報告をしていただきました。長年活動をしている地区や出来たてほやほやの地区などシンポジス トが16名と多く発表していただきました結果、予想どおり時間が足りませんでしたが CDEの各地区間の連絡がとれ,今後の横のつながりが深まるのではと喜んでおります。これを機にまだCDEの組織のない地方に奮起 してもらい、薬剤師が主体となってCDEの組織を作っていただきたいと願う次第です。
シンポジウム5は日本薬物動態学会の協賛で開催され「薬物トランスポーターの臓器別・包括的 な機能の理解と臨床への活用を図る」と題して家入一郎・伊藤清美先生がシンポジストの先生方にお願いされ薬物トランスポーターについて分かりやすくお話していただきました。
ミニレクチャー2演題,参加型セミナー3題, ワークショップ1題のどの会場とも参加者が多く参加者の熱意が感じられました。一般口演は20題,ポスター発表は92題と予想を上回る演題の応募数で驚きました。当初50 ~ 60 演題程度と予測しておりましたので,会員を含めた皆様の熱意の表れではないかと感じました。くすりと糖尿病学会の未来は明るいと勝手に考えております。
次回の第4回学術集会は東京には戻らず新潟にて、2015年9月26日(土)・27日(日)の2日間、朱鷺メッセにて朝倉俊成先生が大会長として開催されます。テーマは「ときめかそう“知閾連携”─薬学の知識と技能の共有─」です。朝倉先生らしい意味深な「知閾連携」どのような内容になるか期待が膨らみます。皆様と新潟でお会いし「知閾連携」の意味を解き明かすことを楽しみにしております。
「くすりと糖尿病」 Vol.4 No.1 より引用
<優秀賞>
P−9 堀井剛史(東京都済生会中央病院薬剤部)
「第一選択経口糖尿病薬の違いによる96週後の血糖コントロールへの影響」
P-61 赤嶺孝祐(九州大学大学院薬学研究院薬剤学分野)
「糖尿病性末梢神経障害痛に対するプレガバリンの至適投薬タイミングに関する検討」
P−81 島田洋二郎(鳥取県済生会境港総合病院薬剤科)
「病院全体での糖尿病ケアマネジメントを目指して〜CDE薬剤師の糖尿病管理への介入プロセスの向上と効果の検証〜」
I-O-3 Toshinari Asakura(Niigata University of Pharmacy and Applied Life Science)
「Preference and Usability for FlexTouch vs SoloSTAR and MirioPen among Japanese diabetes patient and Health Care Professionals」
Ⅱ-O-7 中野貴文(福岡大学病院薬剤部)
「糖代謝異常関連物質メチルグリオキサールの脳梗塞に対する影響」